はじめに
係り結びは全3部構成です。
今回は第3部です。
【第1部】
係り結びの法則というものが何なのか
生徒も十分理解できるように根本から説明しています。
【第2部】
係助詞「ぞ・なむ・や・か・こそ」および反語「やは」「かは」について、
例文を用いて一つ一つ丁寧に解説をしています。
係り結びの法則のつまずきはここで解消しましょう!
【第3部】
係り結びの法則の応用として、
係り結びの省略
係り結びの流れ・消滅・消去
係り結びの逆説用法
について2~3つずつ例文を用いて丁寧に説明をしています。
解説
係り結びの省略
係り結びの省略とは、
係助詞があるにも関わらず、
その結びの語が省略されていることです。
解釈をするにあたって、
省略されている言葉を
補わなくてはいけません。
例文で確認しておきましょう。
例文1
⑬これなむ都鳥。
これが都鳥(である)。
この場合、
係助詞「なむ」があるので、
連体形の結びの語があるはずですが、
「都鳥」という名詞があるだけです。
つまり、
係助詞「なむ」の結びの語が省略されているのです。
ここでは、
鳥を指して、
あれが都鳥という鳥であると説明している場面なので、
断定「なり」などが補えます。
なお、
係助詞「なむ」は
結びの語に連体形を要求します。
したがって、
「なり」は「なる」に活用します。
⑬これなむ都鳥。
↓断定「なり」
これなむ都鳥なる。
太字は係助詞 ・赤字は補った語
※「なり」は係助詞「なむ」があるので連体形になっている。
例文2
⑭隣の男よりかくなむ。
隣の家の男からこのように(あった。)
この場合も、
係助詞「なむ」があるので、
連体形の結びの語があるはずですが
文末にあり、結ぶ語がありません。
係助詞「なむ」の結びの語が省略されているのです。
ここでは、
女のもとに男から和歌が届くので、
「遣したり(送ってきた)」などが補えます。
なお、
係助詞「なむ」は
結びの語に連体形を要求します。
したがって、
「たり」は「たる」に活用します。
⑭隣の男よりかくなむ。
↓遣したり
隣の男よりかくなむ遣したる。
太字は係助詞 ・赤字は補った語
※「たり」は係助詞「なむ」があるので連体形になっている。
例文3
⑮知られざりけるにや。
お分かりにならなかったのでしょうか。
この場合、
係助詞「や」があるので、
連体形の結びの語があるはずですが
文末にあり、結ぶ語がありません。
係助詞「や」の結びの語が省略されているのです。
ここでは、
お分かりにならなかったのであろうか
というような意味なので、
「あらむ」や「ありけむ」が補えます。
これは単純に
「にや」があるから「あらむ」「ありけむ」を補う
と思って大丈夫です。
なお、
係助詞「や」は
結びの語に連体形を要求します。
したがって、
「あらむ」「ありけむ」は連体形に活用します。
⑮知られざりけるにや。
↓あらむ(ありけむ)
知られざりけるにやあらむ。
太字は係助詞 ・赤字は補った語
※「む」は係助詞「や」があるので連体形になっている。
係り結びの流れ・消滅・消去
⑯かやうのことこそは、かたはらいたきことのうちに入れつべけれど、
このようなことは、きまりのわるいことのうちにしまっておくはずであるが、
⑰人々なむ別れ難く思ひて、
人々は別れ難く思って、
⑱母北の方なむ、いにしへの人のよしあるに、親うち具し、さしあたりて世におぼえはなやかなる御方々にもいたう劣らず、何ごとの儀式をももてなし給ひけれど、
母は、古風な由緒ある人で親がそろっていて、当面の世間の評判は華々しい御方々にもそれほど劣らず、何かの儀式も行いなさったが、
太字は係助詞 ・下線部は結びの語
係り結びの流れは、
消滅、消去ともいいます。
ここで係り結びの法則の大原則確認しておきましょう。
さて、
この画像にあるように
通常、
係助詞は結びの語に
特定の活用形を要求します。
「ぞ・なむ・や・か」であれば連体形です。
しかし、
係り結びの流れでは、
この原則がなくなります。
ただし、ルールがなくなるわけではありません。
別のルールになります。
詳しくは後述しますが、
それは多くの場合、
結びの語に伴う接続助詞です。
接続助詞は、
特定の活用形に接続します。
そのルールに従って結ぶ語が流れていきます。
ここでいう「流れる」とは、
本来係り結びの法則は、
結びの語が句点(。)で終止します。
しかし、
接続助詞がついて終始しなくなることを
「流れる」といいます。
例文1
⑯かやうのことこそは、かたはらいたきことのうちに入れつべけれど、
このようなことは、きまりのわるいことのうちにしまっておくはずであるが、
太字は係助詞 ・下線部は結びの語
ここでは
係助詞は「こそ」、
結ぶ語は「べけれ」
です。
係助詞「こそ」があるので
通常であれば、
「入れつべけれ。」と
文が已然形で終始します。
しかし、
例文は
「べけれど、」
というように終始せず、
接続助詞「ど」を伴って続いています。
これはまさに
係り結びが流れているのです。
多くは接続助詞を伴って流れていきます。
【流れる前】
かやうのことこそは、かたはらいたきことのうちに入れつべけれ 。
【流れた後】
⑯かやうのことこそは、かたはらいたきことのうちに入れつべけれど、
太字は係助詞 ・下線部は結びの語
ここで一つ注意です。
「入れつべけれど、」
の「べけれ」は已然形です。
しかし、
その理由は係助詞「こそ」の存在ではありません。
これは接続助詞「ど」が接続しているからです。
接続助詞「ど」は已然形に接続します。
だから「べけれ」は已然形なのです。
もし「こそ」ではなく「ぞ」だとしても、
「べけれ」は「べけれ」のままです。
【流れる前】
かやうのことぞ、かたはらいたきことのうちに入れつべき 。
↓ど
【流れた後】
かやうのことぞ、かたはらいたきことのうちに入れつべけれど、
太字は係助詞 ・下線部は結びの語
例文2
⑰人々なむ別れ難く思ひて、
人々は別れ難く思って、
ここでは
係助詞は「なむ」、
結ぶ語は「思ひ」
です。
係助詞「なむ」があるので
通常であれば、
「人々なむ別れ難く思ふ。」と
文が連体形で終始します。
しかし、
例文は
「思ひて、」
というように終始せず、
接続助詞「て」を伴って続いています。
これはまさに
係り結びが流れているのです。
多くは接続助詞を伴って流れていきます。
なお、接続助詞「て」は連用形に接続します。
【流れる前】
人々なむ別れ難く思ふ。
↓て
【流れた後】
⑰人々なむ別れ難く思ひて、
太字は係助詞 ・下線部は結びの語
例文3
⑱母北の方なむ、いにしへの人のよしあるに、親うち具し、さしあたりて世におぼえはなやかなる御方々にもいたう劣らず、何ごとの儀式をももてなし給ひけれど、
母は、古風な由緒ある人で親がそろっていて、当面の世間の評判は華々しい御方々にもそれほど劣らず、何かの儀式も行いなさったが、
ここでは
係助詞は「なむ」、
結ぶ語は「けれ」
です。
係助詞「なむ」があるので
通常であれば、
「給ひける。」と
文が連体形で終始します。
しかし、
例文は
「給ひけれど、」
というように終始せず、
接続助詞「ど」を伴って続いています。
こちらも同様に、
接続助詞を伴って流れています。
【流れる前】
母北の方なむ、いにしへの人のよしあるに、親うち具し、さしあたりて世におぼえはなやかなる御方々にもいたう劣らず、何ごとの儀式をももてなし給ひける。
↓ど
【流れた後】
⑱母北の方なむ、いにしへの人のよしあるに、親うち具し、さしあたりて世におぼえはなやかなる御方々にもいたう劣らず、何ごとの儀式をももてなし給ひけれど、
太字は係助詞 ・下線部は結びの語
係り結びの逆説用法
⑲はじめこそ心にくくもつくりけれ、
はじめのうちは奥ゆかしく取り繕っていたが、
⑳中垣こそあれ、
垣根はあるが、
太字は係助詞 ・下線部は結びの語
係り結びの逆説用法は、
係助詞「こそ」だけに起こるものです。
逆説用法は、
結びの語が原則通り已然形となりますが、
文が終止せず、
下の文に逆説の意味でつながっていくことです。
多くの場合以下の形を取ります。
【原則】
こそ+已然形。
【逆説用法】
こそ+已然形、
このように読点(、)を伴うことが多いかもしれません。
あくまで教科書やワークの話ですが…
例文1
⑲はじめこそ心にくくもつくりけれ、
はじめのうちは奥ゆかしく取り繕っていたが、
太字は係助詞 ・下線部は結びの語
これは
係助詞「こそ」があるために
結びの語が「けれ」という已然形になっています。
しかし文は終始せず続いています。
そのためこれは
逆説用法となります。
【原則】
はじめこそ心にくくもつくりけれ。
はじめのうちは奥ゆかしく取り繕っていた。
【逆説用法】
⑲はじめこそ心にくくもつくりけれ、
はじめのうちは奥ゆかしく取り繕っていたが、
例文2
⑳中垣こそあれ、
垣根はあるが、
太字は係助詞 ・下線部は結びの語
これは
係助詞「こそ」があるために
結びの語が「あれ」という已然形になっています。
しかし文は終始せず続いています。
そのためこれは
逆説用法となります。
【原則】
中垣こそあれ。
垣根はある。
【逆説用法】
中垣こそあれ、
垣根はあるが、
これが係り結びの逆説用法です。
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