はじめに
今回は
音便
について
現代語文法(口語文法)
古文文法(文語文法)
の両方を確認していきます。
音便とは、
簡単にいうと、
発音の便宜上の変化です。
つまり、
発音を便利にすることです。
身近な例でいうと、
「言って」という言葉が挙げられます。
変化の仕組みは以下です。
言いて
↓
言って
これは
音便に
・イ音便
・ウ音便
・撥音便
・促音便
と4種類あるうちの
「促音便」という現象です。
またこのように発音が変わることを
音便化
といいます。
これらを
口語文法・文語文法ともに確認していきます。
解説
音便の種類と概略
【口語(現代語)文法】
以下の表は
現代語における音便のまとめです。
詳細は後述します。
【文語(古文)文法】
以下の表は
古文における音便のまとめです。
詳細は後述します。
イ音便(口語文法)
動詞
イ音便とは、
発音が「イ」に変わることです。
例を確認します。
「置く」という語は、
カ行五段活用動詞のため、
もともと活用語尾が「か・き・く・け・こ」となります。
しかし画像のように、
連用形には「い」という活用語尾が存在します。
これは
「置く」に
助詞「て」や助動詞「た」が
接続するときに、
「置き」から
発音の都合上、イ音便化したものです。
置きて
↓イ音便化
置いて
現代語において
イ音便する動詞は、
カ行・ガ行の五段活用動詞の連用形のみです。
イ音便(文語文法)
動詞
古文においても
イ音便は
発音の都合上「イ」に変わることです。
動詞については、
口語文法では、
カ行・ガ行の五段活用動詞の連用形がイ音便化しましたが、
文語文法では、
カ行・ガ行・サ行の四段活用動詞の連用形がイ音便します。
なお、表中の「思いて」は
基本形は
「思す」です。
形容詞
次に形容詞について確認していきます。
まず、形容詞、例えば「美し」は下の画像のように活用します。
※「しい」はイ音便であることをわかりやすくするために、
活用表にいれていますが、
通常の活用表には「しい」の記載はありません。
ここからわかるように
形容詞の連体形がイ音便がします。
美しき人
↓イ音便化
美しい人
なお、現代語の形容詞では、
以下の画像のように
もともと連体形は「イ」音です。
助動詞
助動詞のイ音便は
あまり印象がないかもしれませんね。
さてイ音便では
「べし」「まじ」の連体形がイ音便化します。
それぞれの活用表は以下の通りです。
※「べい」「まじい」はイ音便であることをわかりやすくするために、
活用表にいれていますが、
通常の活用表には「べい」「まじい」の記載はありません。
このように、
もともとの活用語尾から、
「イ」音に転じることをイ音便といいます。
ウ音便(口語文法)
形容詞
ウ音便とは、
発音が「ウ」に変わることです。
これは現代語では
形容詞の連用形
に見られる音便です。
例を確認します。
「面白い」という語は形容詞のため、
もともとの活用形が
「かろ・かっ/く・い・い・けれ・○」です。
※本来の活用表に「う」はありませんが、ウ音便のためにいれています。
しかし画像のように
連用形の活用語尾が
「う」になることがあります。
これは、
「面白く」に「ございます」などの語が
接続するときに起こる音便化です。
面白くございます
↓ウ音便化
面白うございます
ほかに
美しくございます
↓
美しうございます
↓
美しゅうございます
ありがたくございます
↓
ありがたうございます
↓
ありがとうございます
おはやくございます
↓
おはやうございます
↓
おはようございます
このような変化をたどった言葉もあります。
このように現代語では、
一般的に、
形容詞の連用形において
ウ音便が見られます。
ウ音便(文語文法)
動詞
口語文法では
形容詞にウ音便が見られましたが、
文語文法では
○ハ・バ・マ行四段活用動詞の連用形
○形容詞の連用形
○「まほし」「たし」「べし」「まじ」の助動詞の連用形
にウ音便が見られます。
動詞では例えば「思ふ」が挙げられます。
※「偲(忍)うで」「頼うで」は、
「しのうで」「たのうで」と読みます。
さて、
「思ふ」は本来
「は・ひ・ふ・ふ・へ・へ」と活用します。
※本来の活用表に「う」はありませんが、ウ音便のためにいれています。
しかし、
接続助詞「て」などを伴うとき
「思ひて」が「思うて」に音便化します。
それをウ音便といいます。
思ひて
↓ウ音便化
思うて
形容詞
形容詞ではたとえば「美し」が挙げられます。
口語文法でもありましたが、似たようなものです。
形容詞の連用形において
ウ音便になることがあります。
※本来の活用表に「しう」はありませんが、ウ音便のためにいれています。
接続助詞「て」が「美しく」に接続して
「美しくて」となるとき、
ウ音便化して
「美しゅうて」
となります。
美しくて
↓ウ音便
美しうて
↓
美しゅうて
このように形容詞の連用形に
ウ音便が見られます。
助動詞
やはりイ音便同様に、
助動詞のウ音便も
あまりなじみはないかもしれませんね。
「まほし」「たし」「べし」「まじ」の連用形が
ウ音便になります。
撥音便(口語文法)
動詞
撥音便とは、
発音が「ン」に変わることです。
現代語の動詞では、
ナ・バ・マ行五段活用動詞の連用形です。
例を確認します。
下の画像の「喜んで」に注目します。
「喜ぶ」は
バ行五段活用動詞なのでもともと活用語尾は、
「ば・び・ぶ・べ・ぼ」
となります。
しかし画像のように連用形に「ん」が存在します。
これは
「喜ぶ」に
助詞「て」や助動詞「た(だ)」が接続する時に、
「喜び」から発音の都合で、
「喜んで」
に撥音便化したものです。
このように「ン」音に転じるものを撥音便と言います。
喜びて
↓撥音便化
喜んで
現代語において撥音便化する動詞は
ナ・バ・マ行五段活用動詞の連用形です。
撥音便(文語文法)
動詞
はじめに、古文において撥音便はビックリするくらい重要だということを肝に銘じておきましょう!
入試でも問われるくらい重要です。
動詞の中では特に、
ラ行変格活用動詞「あり」
が非常に大切です。
例えば、
この野は盗人あなり。
下線部を読めますか?
これを読む際に撥音便の知識が必須です。
「あなり」の読み方は
「あんなり」です。
そもそもラ変「あり」は
「ら・り・り・る・れ・れ」と活用します。
そして、
画像のように、
連体形が撥音便化することで、
「ある」が「あん」になります。
つまり「あんなり」です。
さらにそこから、
「ん」の表記がされなくなり、
「あなり」となります。
この野は盗人あるなり。
↓撥音便化
この野は盗人あんなり。
↓無表記化
この野は盗人あなり。
(この野には盗人がいるそうだ)
テストでは「あなり」を文法的に説明させます。
その場合は以下のように答えます。
ラ行変格活用動詞「あり」の連体形「ある」
+
伝聞・推定の助動詞「なり」からなる
「あるなり」の、撥音便「あんなり」の、「ん」の無表記化
一言一句同じであることは求めません。
撥音便、無表記の2点は示してください。
ちなみに、
ラ変動詞やラ変型の助動詞は
推定の助動詞「なり」「めり」が接続する時に、
たびたび撥音便化します。
撥音便は枕草子でもたびたび用いられます。
形容詞
形容詞の連体形で撥音便化が起こります。
例えば「多し」は以下の画像のように活用します。
(「多し」には終止形と已然形に「多かり」「多けれ」があることに注意)
連体形はもともとは
「多かる」ですが、
「多かん」となっています。
これが形容詞の撥音便です。
多かるめり
↓撥音便化
多かんめり
形容動詞
形容動詞も同様に、
連体形で撥音便化します。
例えば「さすがなり」は以下のように活用します。
連体形「なる」が撥音便化して
やはり「なん」となります。
さすがなるめり
↓撥音便化
さすがなんめり
助動詞
助動詞では、
〇打消「ず」連体形「ざる」
〇完了「たり」連体形「たる」
〇推量「べし」連体形「べかる」
〇打消推量「まじ」連体形「まじかる」
〇断定「なり」連体形「なる」
といった語が撥音便化します。
例えば打消の助動詞「ず」は以下のように活用します。
連体形は「ざる」ですが、
撥音便化すると「ざん」となります。
ざるなり
↓撥音便化
ざんなり
他の助動詞も同様です。
促音便(口語文法)
動詞
促音便とは、発音が「ツ」に変わることです。
現代語では
タ・ラ・ワア行五段活用動詞の連用形で見られます。
ワア行とは、
「言う」のように、活用語尾にワ行とア行の両方を持つ活用の種類です。
画像のように、
「言う」は、助詞「て」や助動詞「た」が接続するとき
促音便化して「言っ」となります。
言いて
↓促音便化
言って
促音便(口語文法)
動詞
古文においても 促音便とは、発音が「ツ」に変わることです。
古文では、
○タ・ハ行四段活用動詞の連用形
○ラ行変格活用動詞の連用形
において見られます。
例えば「言ふ」は以下のようになります。
このように連用形において、
「ツ」に変わることを促音便化といいます。
言ひて
↓促音便化
言って
結局は撥音便
ここまでに
イ音便
ウ音便
撥音便
促音便
を確認してきましたが、
文法問題で
結局入試で聞かれるのは撥音便です。
撥音便は必ず理解しておきましょう。
さては扇のにはあらで、海月のななり。
ななり… であるようだ。断定の助動詞「なり」の連体形+推定の助動詞「なり」の終止形である、「なるなり」の撥音便「なんなり」の無表記化。
なほこの宮の人にはさべきなめり。
さべき…そうであるべき。ふさわしい。ラ変動詞「さり」の連体形+当然の助動詞「べき」の連体形である、「さるべき」の撥音便「さんべき」の無表記化。
なめり…であるようだ。断定の助動詞「なり」の連体形+推定の助動詞「めり」の終止形である、「なるめり」の撥音便「なんめり」の無表記化。
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