【古文】主体の転換と活用の種類の異なる語

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はじめに

ここでは「主体の転換」を学習していきます。

一般に聞く言葉ではないかもしれませんが、

古文では結構使える考えです。

さて、

この例文をどう訳しますか。

ポイントは終止形「かづく」の「かづけ」と「かづき」です。

1.(上手に歌を詠んだ女性に)上下みなかづけたれば、かづきあまりて(略)

〈大和物語〉

これの訳が取れるようになることが目標です。




概要

上記表のように、

「かづく」には2つの活用の種類があります。

活用の種類に不安のある方はまずこちらの復習をおすすめします!

古文では活用の種類が変わるとき、

主体の転換が起こりやすいです。

瞬時に活用の種類を見分けていく必要がありますね!

解説

活用の種類の見分け方

1.(上手に歌を詠んだ女性に)上下みな(A)かづけたれば、(B)かづきあまりて(略)

〈大和物語〉

説明の便宜上、上記のように

「かづけ」をA

「かづき」をB

とします。

まずAの活用の種類を特定します。

A「かづけたれば」とあります。

活用の種類を特定するには

下に伴う語を確認します。

下には連用形接続 完了「たり」があるので、

A「かづけ」は連用形です。

連用形で活用語尾がeの母音を取っているので

A「かづけ」は下二段活用となります

下二段活用が不安な方はこちらもご覧ください!

次にB「かづきあまりて」です。

1.(上手に歌を詠んだ女性に)上下みな(A)かづけたれば、(B)かづきあまりて(略)

〈大和物語〉

「かづき」の下には

「あまり」という動詞、つまり用言があるので、

B「かづき」は連用形です。

A「かづけ」が連用形でeの母音だったのに対して、

B「かづき」はiの母音ですので、

B「かづき」は四段活用となります。

四段活用が不安な方はこちらもご覧ください!

1.(上手に歌を詠んだ女性に)上下みな(A)かづけたれば、(B)かづきあまりて(略)

「かづけ」→下二段活用

「かづき」→四段活用




意味の違いを確認

まず古文の世界では褒美として衣類を贈答していました。

その衣類を「かづく(被く)」のです。

こうむる」という漢字になることからも、

意味は「もらう」です。

そしてこの時の「かづく」は四段活用です。

つまり四段活用のときの「かづく」は「もらう」という意味になります。

一方で

下二段活用の際の「かづく」は「与える」という意味になります。

つまり

A下二段活用連用形「かづけ」は「与える」、

B四段活用連用形「かづき」は「もらう」というわけです。

1.(上手に歌を詠んだ女性に)上下みな(A)かづけたれば、(B)かづきあまりて(略)

「かづけ」→下二段活用…「与える」

「かづき」→四段活用…「もらう」

ここで訳を確認しますとこうなります。

1.(上手に歌を詠んだ女性に)上下みな(A)かづけたれば、(B)かづきあまりて(略)

(上手に歌を詠んだ女性に)身分の高い人も低い人もみんな(女に褒美の衣を)与えたので、

(女は)いただききれず(略)

主体の転換とは

ついに主体の転換について確認します。

ここでいう主体とは

「動作主」と同義です。

1.(上手に歌を詠んだ女性に)上下みな(A)かづけたれば、(B)かづきあまりて(略)

(上手に歌を詠んだ女性に)身分の高い人も低い人もみんな(女に褒美の衣を)与えたので、

女はいただききれず(略)

例文では、

与える(Aかづけ)の主体は「上下」で、

もらう(Bかづき)の主体は「女」です。

このように活用の種類が変わるとき動作主が切り替わることを

「主体の転換」と説明できます。

1.(上手に歌を詠んだ女性に)上下みな(A)かづけたれば、(B)かづきあまりて(略)

(上手に歌を詠んだ女性に)身分の高い人も低い人もみんな(女に褒美の衣を)与えたので、

女はいただききれず(略)

下二段活用Aかづけ … 上下

↓主体の転換

四段活用Bかづき … 女

一般化すると、

四段活用「かづく(もらう)」は、もらう側が主体

下二段活用「かづく(あげる」は、あげる側が主体

ということです。




ほかの動詞でも起こる

たまふ

「たまふ」にも活用の種類が二つあり、

四段活用…尊敬語「お与えになる」

→あげる側が主体

下二段活用…謙譲語「いただく」

→もらう側が主体

です。

例文を確認します。

2.使ひに禄給へりけり。

(使いの者に褒美をお与えになった。)

伊勢物語

主体→与える側

3.魂は朝夕べにたまふれどあが胸痛し恋の繁きに

(あなたの思いやりは朝にも夕方にもいただくけれど、私の胸中は痛い。恋が多いから。)

万葉集

主体→いただく側(=私)

2の「給へ」は完了の助動詞「り」があるため、

「給へ」は四段活用の已然形とわかります。

3の「たまふれ」は下二段活用の已然形の形になっているため、

下二段活用の已然形とわかります。(トートロジーです(笑))

たのむ

四段活用…あてにする、期待する

→あてにする側(Bさん)が主体

下二段活用…あてにさせる、期待させる

→あてにされる側(Aさん)が主体

下二段活用の「あてにさせる」が少しイメージしにくいので、何度も確認してみてください。

上記図だと、

Bさん(=主体)がAさんをあてにする、という状態

Aさん(=主体)がBさんに、Aさん自身をあてにさせる、という状態です。

古文の例文を確認してみましょう。

4.のちの矢をたのみて、初めの矢になほざりの心あり。

(2本目の矢をあてにして、1本目の矢をなおざりにする心がある。)

徒然草

主体→2本目の矢をあてにしようとする弓を射る人

5.待つ人は障りありて、たのめぬ人の来たり。

(待っていた人は差し障ることがあり、(私を)あてにさせない人が来た。)

徒然草

主体→私にあてにさせていなかった(私があてにしていなかった)のに来た人

4の「たのみ」は接続助詞「て」があるため、

四段活用の連用形とわかります。

5の「たのめ」は打消の助動詞 「ず」が接続しているため、

下二段活用の連用形とわかります。

ほかにも主体の転換が起こる単語はありますので、

その都度理解できるといいですね!

ありがとうございました。

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